もののけ姫 - レビューと感想

もののけ姫

  • 作品名 : もののけ姫
  • 公開年 : 1997年
  • 監督 : 宮崎駿

物語全体

「もののけ姫」は全体に亘り「風の谷のナウシカ」と通じる部分が多く見られる作品だったように思います。似ている似ていないと言うよりは「風の谷のナウシカ」の中に埋め込まれていた要素を取り出し、そこに新しい要素を多少追加しながら、各要素の分散、割り当て直し、組み替え直しを行った作品、「同じようなテーマの斬り直し作品」であるように感じました。(勿論、それはいつものように姫の目が節穴であるためだと思われますが...。)

「もののけ姫」に就いては初見時から全く新鮮味を感じられなかったのですが、その辺りの原因も(「もののけ姫」よりも前に見ている)「風の谷のナウシカ」の「斬り直し作品」に見えてしまったためだと思います。

内容に就いては(新鮮味が感じられない事とは別に)全体的に退屈な内容(姫にとっては惹き付ける魅力が薄いと感じられる内容)になっているように感じました。「似たようなテーマの斬り直し作品」だとしても「風の谷のナウシカ」ほど人を惹き付ける魅力のある内容にはなっていないように思います。

部分的に見ると序盤にも中盤にも終盤にもそれぞれでいくつか見せ場を用意されていて、その辺りは良いと思うのですが...それらがどれも今一つだったのが残念でした。作品の全体を覆っている退屈さは、物語そのものの魅力に薄さだけでなく、この見せ場作りの失敗もその要因の一つになっているように思います。

話の進め方に関しても上手では無かったように感じます。

アシタカとサン

物語そのものの魅力の薄さをキャラクターが補うようならまだ良かったのですが、アシタカとサンに関しては魅力的な部分が薄いように思え、物語そのものの魅力の薄さを補うどころか、その魅力の薄さによって作品全体の魅力の薄さを増大させているように感じられました。仲介者と言うのは描き方によっては非常に魅力的になるものなのですが...残念です。(どうしても「風の谷のナウシカ」との比較になってしまうのですが、)魅力と言う点ではアシタカとサンの2人を足してもナウシカ一人に及ばないように思います。

時間

物語が終わるまでの時間が2時間強もありました...。新鮮味が感じられず、魅力の薄い内容でありながらのこの時間ですので、視聴中には(「ナウシカ」では無かった)睡魔が何度も襲来し、それと戦うのが大変でした。「平成狸合戦ぽんぽこ(高畑勲)」を見た時と同じです...画面の中で人間と自然とが戦っている間、姫は睡魔と戦っていました...。(内容的には一言で括ってしまえばどちらも「退屈」となるのですが、「もののけ姫」の内容的退屈さは「平成狸合戦ぽんぽこ」に見られるそれよりは酷いとは感じませんでした。そのため、「もののけ姫」で眠気を感じたのは恐らくは「平成狸合戦ぽんぽこ」ほどでは無い退屈さに加えて物語の雰囲気(内容や描画や曲の調子)もあっての事のように思います。)

話のテンポに関しては場面によってはもう少し速度があっても良かったように思います。人を惹き付ける魅力を持ち合わせていない(と姫が勝手に感じているだけですが)中でのテンポの悪さも退屈さを強めている要素だったと思います。

全体、場面、キャラクターなどに視聴者を強く惹き付ける力、視聴者の気持ちを画面内に繫ぎ止めておけるだけ力のがあれば「もののけ姫」の中にあるような時間の使い方は有効な演出になると思いますし、作品が終わるまでの時間が長くなっても気にはならなくなるのですが、それが備わっていない中でのあのような時間の使い方を行うのは逆効果であると言え、それは間の悪さを感じさせ、退屈を長くさせるだけのものであるように感じました。同じように時間を使うにしても(あのように時間を使いたければ)見ている人間を惹き付け、気持ちを繫ぎ止めておけるようにしてからでなければならないように思います。人を飽きさせない魅力があって許される時間の使い方をそうでは無いのに行ってしまった事は失敗だったのでは無いかと...。

背景音楽(BGM)

劇中で流れている曲は大きな音のものに関してはどれも鬱陶しく感じました。

他のジブリ作品と同じように「もののけ姫」でも素人のような声の人がそこかしこに使われていました。ただ、アシタカがそれほど悪くは無かった事で全体的に大きく崩れずに済んでいるように思います。もし、これでアシタカがおばあさん(ヒイさま)と同じ程度に聞き難い声だったなら、かなり酷い事になっていたのでは無いかと思います。

ヤックル

ヤックルはとても可愛く感じました(但し、声は除く)。物語の内容に興味が湧かなかった事もあり、姫にとってはヤックルの可愛さだけが見所だったような気がします。

デイダラボッチ(シシガミの夜の姿)

デイダラボッチと言う名前を聞いて直ぐに頭に浮かんだのは日本の伝承に出て来る同名の巨人です。(姫はデイダラボッチでは無くダイダラボッチと呼んでいます。)

デイダラボッチに就いては余り詳しくは知らないのですが、地形の形成に関係した話をいくつか聞いた事があります。また、「もののけ姫」には踏鞴場が出て来ますが、デイダラボッチは踏鞴場や鍛冶、製鉄の神とされる事もあったかと記憶しています。(手元にある神話に関する資料を開いてみると...鍛冶と暴風の神(天目一箇神)との同一視が見られたり、踏鞴製鉄が盛んだった出雲の巨人神(八束水臣津野命)が起源では無いかとする説もあったりするようです。地形の形成だけでなく、踏鞴場、製鉄、鍛冶、暴風とも関係があると言えます。別名には踏鞴法師と言う名前が見られました。)

「もののけ姫」の評価 : 17点

二番煎じでは無いにしても「風の谷のナウシカ」を知ってしまっている後ではどうしてもオリジナリティが薄い「似たようなテーマの斬り直し作品」のように感じてしまいました。物語もキャラクターも魅力的だとは言えず、話の進め方や展開の速度にも不満を感じました。作品全体の雰囲気(内容、描画、音楽など)も姫には(完全に個人の好みの問題ですが)合っていませんでした。終わるまでの時間が2時間強となっていて、視聴者(とは言っても姫に限っての事となりますが)を惹き付ける魅力を持ち合わせていない中での2時間強と言う時間は非常に長く感じられ、退屈さと共に襲って来る眠気に耐えるのが辛かったです。

映像的な描画であったり、演出であったり...そう言ったところ以外、もっと根幹的な部分で人を惹き付ける工夫をして欲しかったです。

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