猫の恩返し - レビューと感想

猫の恩返し

  • 作品名 : 猫の恩返し
  • 公開年 : 2002年
  • 監督 : 森田宏幸

物語全体

主人公の吉岡ハルが車に轢かれそうだった猫を助けた事を発端に不思議な出来事に巻き込まれて行くお話です。

「猫の恩返し」と言うタイトルから猫を助けた恩が返って来るところは想像通りでしたが、その恩返しが助けた猫(ルーン王子)からでは無く親(猫王)からの恩返しであったり、それが有難迷惑でしかなくそれを何とか解消しようとする展開になっていたりしたところは意外でした。「鶴の恩返し」や「舌切り雀」のようなお話が頭にあったためだと思います。途中でユキちゃんやルーン王子からの恩返しもあり、有難迷惑な恩返しだけで終わっていなかったのは良かったです。

全体的には内容が薄く、見所が少なかったように思います。物語の進行に変な間延びが無いのは良いのですが、内容の面では物足りなさが残りました。

物語の構成を見ると「よくある要素」、「お話作りの雛形」を原形に近い状態のまま繫ぎ合わせているだけに見える部分があり、物語内では在り来たりに感じられる場面、「どこかで見た」ように感じられる場面が目に付きました(※)。この辺りはもう少し工夫があっても良かったのでは無いかと思います。(雛形が浮き上がる事を隠そうとしていないように見える事から、意図的に雛形を見えやすくしているようにも思えます。もし、そうだとするなら「在り来たり」に見えるように仕上げる事こそが工夫であり、「在り来たり」を感じて当然だと言えそうです。ただ、勿論、その路線で魅力的なお話を作る事は可能だと思いますが、この「猫の恩返し」ではそれによる「良さ」は余り出ていないように感じました。あるとするなら変に複雑にならずに見ていて疲れなかったと言う事くらいでしょうか...。雛形を目立たせてお話を作るのであれば、もっと上手く利用しなければならなかったように思いますし、(雛形の存在が薄まるような大胆な加工は行えないにしても、)雛形を残しながらでも出来る工夫(※※)をもう少し積極的に施して行った方が良かったのでは無いかと思います。

(※例えば、「物語に出て来る塔」では「登る」、「戦う(一騎打ち)」、「崩れる」、「日の出」、「最後の山場」と言った辺りが姫にとっての直ぐに思い浮かぶ「在り来たり」なのですが...それまでの展開から「もしかすると」と思って見ていると、その後の展開では姫が思い浮かべたそれらが(それぞれの要素には少しずつ捻りが見られたものの)全て含まれていました...。流石に「五つとも」とまでは思っていなかったので「まさか」ではあったのですが...。)

(※※例えば、ハルが塔から落ちて空中を落下して行く場面では、(これが「長靴を履いた猫(東映動画)」であれば落下中の主人公達を白い鳩の集団が包んで助けるところですが、)単に落下中のハルをカラスの集団が包み込んで助けるのでは無く、「カラス達が自らの体を使って螺旋階段を作り、ハルがそれを歩いて下りて行く」ようになっています。雛形を重視して話を作るにしても、このような雛形(この例では「落下途中を鳥に助けられる」が雛形)を残しながらでも行える思い切った工夫はもう少しあっても良かったのでは無いかと思います。(この場面ではそれによって「鳥の集団が人間を包み込んで助ける」以上に不自然さが大きくなってしまっていますが、ファンタジーの無理な押しつけは最初から覚悟の上で作っているのでしょうから、ある程度の不自然さを伴ったとしてもこう言う工夫はあった方が良いと思います。))

在り来たりの素材を繫ぎ合わせてお話が作られている事もあってか、作品中にある種の懐かしさのようなものを感じる事がありました。(これは、自分が年月を重ねた事により感じるようになる「懐かしい」とは違い(それを感じるほど姫はまだ長く生きてはいません)、例えば、田園風景を見てどこか懐かしく感じる...そう言ったような懐かしさに近いものであるように思います。)これも「どこかで見た」を使う事によって狙った効果だったのでしょうか。ただ、何にしてもそこに面白味が伴っていなかったのは残念です。

猫が最初に立ち上がって喋った場面では何とも言えない気持ち悪さを感じました。姫は猫好きですが、もし、猫があのようだったら...可愛いとは感じないのだろうと思いました...。

ハルが猫(ムタ)の後を追って「猫の事務所」へと向かう場面では、猫が「猫の道」に入った後も最後まで後を追って行けていたハルが羨ましかったです。姫は猫に誘われて猫の後を付いて行った事がありますが、猫が「猫の道」に入ったところで先に進めなくなり付いて行くのを断念した事がありますので...。(姫の場合はその先に「猫の事務所」がある訳ではありませんが。)

キャラクターの声

素人のような声で喋るキャラクターには違和感がありました。これはここ最近のジブリ作品では「何時もの如く」になってしまっています。

ハルは台詞が多く、その分、他のキャラクターよりも拙さが気になる事が多かったのですが、聞き難いなりにもそれなりに聞く事は出来ました。

ハルの持つ拙さの中には幾分か魅力を感じる事もありましたが、それよりも聞き難さの方が強く感じられ、魅力のあるなし以前の問題であるように思いました。これでもう少し聞きやすければ良かったのですが...。(熟達する事により未熟だった故の良さを失う事も考えられますが、そうだとしても聞き難いよりは聞きやすい方が良かったです。)

バロンも声やお芝居の拙さが気になりました。見せようとしている格好良さが声のために台無しになってしまっているように感じられる場面もあり、残念でした...。

カラス(ガーゴイル)の声は特に切れが悪く、酷く聞き取り難い事がありました。耳を試されているかのようでした...。

ハル(吉岡ハル)

ハルは基本的には(車に轢かれそうだった猫(ルーン)を助けた以外では)周りが作った流れに乗って流れて行くだけであり、自発的な行動が少なく、主人公としては面白味に欠けているように感じました。

(個人的には自分で道を切り開いて行くキャラクターの方が魅力的に見えるのですが、それだとバロンを登場させる意味が薄れてしまいますし、お話の都合を考えるとハルは(主人公とは言ってもお姫様役ですし、ナイト(バロン)が登場する事からも)展開に流されるキャラクターである必要があったのだと思います。しかし、そうであるなら、その分の物足りなさをバロンが補っていなければならないように思うのですが...。バロンも少し弱いように感じられました。バロンの活躍する場面がもっと多ければ(姫の好みは別にして)ハルに自発的な行動を求める事も無かったのでは無いかと思います...。)

ハルがカラスの螺旋階段を下りて行く場面では(人間がカラスに乗る事が出来るかどうかは別にして)ハルの足を出すタイミングが絶妙であり、空中で何気なくそれをやって退けている辺りが凄いと思いました。姫が同じ状況であったなら、恐らく、ハルのようには出来ません...。(カラスがハルの歩調に上手く合わせていたのだとしても、)ハルの運動能力と度胸の良さがあって可能だった事なのでは無いかと思います。

バロンとムタ

バロンは「耳をすませば」に出て来たバロンにそっくりでした。「フンベルト・フォン・ジッキンゲン男爵」と言う名前も「耳をすませば」のバロンと全く同じです。

また、ムタ(ルナルド・ムーン)も、大きさや色が多少違うものの、「耳をすませば」のムーンに似ていました。

「猫の恩返し」は「耳をすませば」と同じ世界の作品...には見えませんでしたが、何かしらの繫がりはありそうです。他で見たキャラクターが別作品に出演すると言うのは(権利云々の問題がなければ)あっても良いと思いました。

視聴時間

視聴時間は1時間を超えるくらいの長さであり、内容的には丁度良い長さだったように思います。これ以上長いと興味が逸れていたかも知れません。

「猫の恩返し」の評価 : 5点

どこかで見たようなお話、聞いたようなお話を切り貼りして作ったかのように感じられる作品でした。視聴中には他のお話を思い起こす事が度々ありました。

内容が複雑では無いため気楽に見ていられましたし、話の進行速度が良く、時間も短いため、途中で眠たくなる事も疲れる事もありませんでした。ただ、内容が薄く、夢中になれるものが無かったのが残念です。何となく見ている内に終わってしまっていました。(このお話で内容を厚くしたとしても、それによって単に簡潔さが失われたり、時間が伸びるだけで終わってしまったりする事も考えられますので、「猫の恩返し」の場合はこれで良かったのかも知れませんが...。)

姫の好みに合っていない作品だったように思います。気楽に見ていられるのは良いのですが、面白さや楽しさを感じる事も夢中になる事も無く、最後まで興味を持つ事が出来ずに終わりました。5点です。

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